カガワの自転車
清ちゃんの
オーバーホール日記



第150回

清ちゃんのつぶやき(その114)夢



 少し前から150回を意識して何かお宝を紹介しようと思っていたのだが、この暑さ、押し入れの奥を捜す気にもならず、今日まで来てしまった。そんな時、ふと、お宝って何なのだろう等と考えた。他人が欲しがっているレアなもの、一般的にそんなものがお宝だと考えられている。ただ、他人が見ても何ということのないものだが、自分にとってはお宝というものもある。若い頃、使っていたパーツや自転車、古いものとは限らない。やっと入手したパーツを手にとって微笑む。それらの先にある共通したものは夢である。



 誰しもそうだが、自転車を入手するのは、その自転車に乗ってどこかに行きたい、何か得たいというような夢があるからである。今まで行けなかった所に自分の力で行けるようになる。そんなことがきっかけである場合がほとんどだと思う。パーツにしても、それを使えばより早く、より快適に走ることができるのではないかといった夢がある。中には単純に街中でかっこよく見られたいとか云った動機もあるが、それだってりっぱな夢である。



 数週間前に福岡県の知人宅に行った。久しく行っていなかったのだが、話したいことがあるという事だった。あんな事もやりたい、こんな事もやりたいと壮大な夢を語られた。このところ忘れかけそうになるような夢だった。ただ、それを語る表情は生き生きとしていた。一部はすでに進行しているようだが、夢の一歩は踏み出し始めていた。夢は人間として生きていく糧だと感じた。よく、夢も希望もない等と言う人がいるが、どこかに夢はあるはずである。それが具現化するかしないかは別として、夢を持つこと、夢に向かっていくことが大切で、それが生きるということにつながってくるのだと考える。



 何だか哲学的な話になってきたが、今日、一台の自転車を北海道に発送する予定である。自転車はジャイアントのグレートジャニー。乗られる方は定年を迎えてからしばらく経った男性。夢は北海道から自転車に乗ってあちこち回りながら帰ってきたいということである。年齢的なことを考慮すると日本一周する程の体力、気力はないが、日本半周だとできるのではないかと思ったそうである。経験を聞くとベテランではない。自転車選びから用品、装備、心構えに至るまで話しあった。我々の仕事は夢を語る人のお手伝いをすることにある。そして、その夢がかなった時の表情を見るのがやりがいでもある。



 昔、よく旅をしていた。好きだったのはフェリー。宿泊代をうかせるのによく利用した。朝起きて、知らない土地に到着する。港独特の匂いの中で期待と不安が入り混じる。それでも最初の一踏みで不安の方は消えていく。その先に見えているものは景色ではなく、夢である。それが一番のお宝である。

第151回へ続く...

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