カガワの自転車
清ちゃんの
オーバーホール日記



第1回

ロードマンのオーバーホール



 実は今、往年の名車、BSのロードマンのオーバーホールをやっている。ロードマンが名車かどうかは人によって意見の分かれるところだろうが、サイクリング車の普及という点では年間10万台という販売実績から、その恩恵を受けた人たちも多いと思う。そんな意味では名車と呼んでもいいのではないだろうか?この頃の車種体系としては上級車種にユーラシア、アトランティス、グランベロが揃っていた。



 今回、作業しているのはロードマン・コルモ。製造は83年12月。製造年月は部品の製造年月から判断した。この頃は生産に追われていた時期だけに、部品納入後、すぐに組み立てといった状況が続いていた。もちろん、春の通学車シーズンに合わせるためである。



 今回の依頼者はS氏、27歳、自転車はお父さんが購入。その後、子供に譲るといった形になったらしい。そして、この自転車で通学等に使用していたとの事。ただ、もう、一つの限界かな、という事で新規にロードレーサーを購入。それまで持っていた今回の自転車をオーバーホールして保管しておきたいといった経緯である。譲ってもらった時にドロップハンドル仕様からオールランダーハンドルに変更してある。ブレーキレバーの製造年月から、90年以降と見られる。



 持ち込まれた時に写真を撮っていればよかったのだが、今回、このようにHPで公開することを意識していなかったために撮っていない。ただ、持ち込み時は散々な状態だったことだけは確かである。前後のキャリアを見てもらえばそれが想像できるだろうか?チェンは油で固まり、ギヤ板も、これはブラック仕様だったかな?等と勘違いしそうなくらいだった。



 先ずは部品を全部外す。ねじが錆び付いている所は慎重を要する。特にアルミ部に鉄ねじが挿入されている部分には気を使う。例えて言えば、ステムに直付けされているベルのねじ部分等である。BBやヘッド小物一応、全部取り外す。それからは時間を見つけて、暇々に錆おとしや磨いたりしている。完成までに自転車によって違うものの、約一ヶ月くらいはかかる。これだけ仕事にしているならば、数日で終わるのだろうが、塗装の上に溜まった垢等はやはり取り去るのに時間を要するし、部品もしばらく灯油に浸しておかねばならない時もある。



 今回、23年前の自転車だが、昔の自転車はこのクラスのものでもポイントを押さえたモノ作りをしていることを実感する。例えば、ハブだが、鉄ボディの普及品、サンシン製である。ハブを抜くと分かるが、玉押し、ワッシャー、ロックナット等の精度が出ている。具体的に言うとハブ軸に対しての直角度がでている。材質にしても適度な硬さがあり、締め付けても歪みがない。これが昔の自転車が生き残っている理由でもある。確かに、今、台湾製のパーツでも良くなってきた。鍛造技術もかつての日本と遜色ないくらいまでに向上してきているものもある。ただ、ただし、である。ねじがよくない。ねじ山、精度、材質等を含め、まだまだである。“その国の工業水準はねじをみれば判る”といった話をすると理解できると思う。かつてのメイドインジャパンのねじの感触を知っている人たちには、今の外国製のねじは我慢できないのではないのだろうか?いくら締めても締まったという感触がないとか、ボルト、ナットを組み合わせてみても、妙に緩かったり、きつかったり、といった事がよくある。



 話が脱線しそうなので、ねじの話はここまでにして、作業をしていると、その当時のことが思い出される。クリマチックディーラー、トップマウントレバー、SCブレーキ、分割ステム等のパーツが使われている。クリマチック・・・止まっていても変速レバーを動かせるといった、外装変速機の弱点をカバーできるものだった。シマノではポジトロンという機構があった。初期のものはピアノ線を使い、ワイヤーの伸びという欠点をなくしていた。その後、これがSISにと発達していくことになろうとは、その当時、誰も思わなかったに違いない。



 SCブレーキ、これもそれまでのサイドプルブレーキの短所だった片効きをなくすことを考えて作られたものである。本体と軸を別構造にし、ボールを介して左右の開きを調節する機構である。他社向けにはつまみを手で調整できる機構がついたブレーキをこの頃のダイヤコンペは供給していた。



 分割ステムも地域によって、ドロップハンドル禁止のところがあり、それに対応するものだった。それまではステムと組み合わせてフラットバーを販売店が事前に用意しなければならなかった。このステムができたことによって、販売店はかなり楽になった。



 そんなオリジナルパーツを考え、採用していっていたこの時期がいい時期だったのかもしれない。その後、ロードマンを始め、数々の車種が消えていく運命になるのだが、MTBの台頭、モータリゼーションの波に流されて今日に至っている。



 ここまで読んで下さった方々に誤解されると困るが、レストアやセミレストアを専門にやっているわけではない。普段は普通の自転車の販売や修理をしている。あくまでも、話しを聞いて、現物を見てから仕事を受けている。先ずはその自転車に対して、その人がどのくらいの思い入れがあるか?ということを重要視している。だから場合によってはお断りする事もある。自転車にしてもあまりにも腐敗が激しく(ひどい時にはフレームパイプが錆びて穴があいていたりする)、預けられても、直せる見込みがないものもある。



 過去にもかなりの数の自転車を触らせてもらった。それぞれにいろんな思い出が詰まっていた。一人で初めてツーリングに行った自転車、不安な気持ちを持って野宿したときに自転車を抱えて寝たとか、友人たちと一緒にいろんな所に行った思い出とか、特殊なところでは、亡くなったお母さんが大事にしていた自転車(スポーツ車ではない!)というのもあった。また、今は成功しているが、店をやり始めた頃に毎日、商品販売に使っていた運搬車といったものもある。中には、別れた彼女との思い出が詰まっているといった、ほろ苦い青春が見えてくるようなものもあった。



 ランドナーの整備に持っていっても、どこの自転車屋さんでも受け付けてくれなかった、形見の自転車、運搬車にしても、いろんな自転車屋さんから拒否されたものだった。話を聞いて、そんな人達の手伝いをしたい、それがきっかけだった。



 ものによっては、昔のパーツを今のものに交換するといった単純なものでなく、時代考察をして、交換するにしろ、オリジナル車のイメージを損なわないようにすることも重要である。ランドナーに至っては、ライトコードの処理(フレームやマッドガードの中、キャリア内を通す)等、引き受けてくれるところも少なくなった。自転車屋さんによってはいい技術を持っていたが、高齢のために店を閉めるところも増えてきた。それでも、思い出の詰まった自転車に乗りたい、整備して手元に置いて置いておきたい、そんな人達の夢の手助けをする。それがこのようなオーバーホールやセミレストアという形になってさせてもらっている次第である。
主要スペック
フレーム クロモリ3本 ダイヤモンド ストドロエンド
ハンドル ニットー オールランダー(現在)
ステム SR 分割タイプ 60o突き出し
サドル カシマ
シートピラー SR ラプラードタイプ 溝付
チェンホィル SR 5アーム 50×40 165
ディレーラー F)サンツアー R)サンツアー クリマチック
レバー サンツアー トップマウント
フリー サンツアー パーフェクトタイプ 6速 13-24
ハブ サンシン ナット止め セミラージフランジ
ペダル SR 両踏み アルミ
リム 26×1-3/8 ステンレス
ライト サンヨー プロックダイナモ
ブレーキ ダイヤコンペ SCブレーキ アルミサイドプル
レバー ダイヤコンペ フラット用 アルミ

第2回へ続く...

第44回オートバイご参照ください。
第343回丸石の自転車ご参照ください。

目次

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