カガワの自転車
清ちゃんの
オーバーホール日記



第104回

清ちゃんのコレクション(その19)ロト・スコルピオン



 少し涼しくなったので押入の奥を捜した。夜遅く、ごそごそ音をたててやっている。アパートの隣人はどう思っているのだろう?そんなことを考えていたら、お宝箱が一つだけ出てきた。少しコレクションシリーズが続くかもしれない。私にとってのお宝は、有名なカンパのパリルーベでも初期グランスポーツでもない。皆さんが知らないような、日本では持っている人がほとんどいないようなものである。



 コレクションの15回で紹介したミケもそうである。その時代、イタリアにはオフメガ、ジピアメ、ギャリ等のメーカーがあったというのは何度も書いた。その中にロト(roto)というメーカーもあった。このメーカーの製品は主に一般車に使われ、完成車メーカーに納入する事が多かった。当時のビアンキ等の廉価スポーツ車や街乗りスポーツ車にもよく使われていた。変速機だけでなく、ヘッドセット等も作っていた。



 今回のものはまさしくそんな部品である。オール鉄製の変速機である。横から見るとスコルピオンの文字だけが目立つ。左上に小さくイタリアの表示。メーカー名はエンド取付ブラケットに申し訳なさそうにひっそり隠れている。他のメーカーが社名をサイドに大きく入れているのとは大違いである。



 さて、自転車に取り付けた状態で見ると、廉価ものだが、オリジナリティあふれたデザインの変速機に見える。写真を見て、プーリーケージに気がついた人は正解である。上部が伸びたような、どこかで見たことのあるような形。ユーレーと同じ形である。前方向から見るとなんと!ユーレーのチャレンジャー、エコと同じなのである。比べてみれば分かるが、パンタグラフのピンの方向は違うが、寸法は同じである。テンションスプリングやリターンスプリングの巻き数まで同じである。プーリー間の長さは違う。この点から見れば、フロントシングル、5段か6段の自転車に使われるものと推測される。



 鉄板プレスだけでこれまで作り上げるのもたいしたものである。ただ、オリジナルのユーレーと違うのはその鉄板の厚みである。少し薄い。それによって加工はやりやすくなる。エンド取付ボルト周辺だが、ユーレーではボルト周りを被うように加工し、箱型にして強度を上げているが、ロトでは単にコの字状にして、解放された形である。板が薄いうえにこのような方法ではたわみも出るだろうが、そこはイタリア製、そんな事は気にしない人たち向けである。



 南イタリアでオリーブ畑の道をワイン片手で足代わりの自転車に乗って走っているおっさんが使うのである。これでいい。そんな事を想像するだけでも楽しくなってくる。しかし、このようなものを集め、オリジナルと比べ、一人でそんな事を考え、ほくそ笑むなんて、一体、何なのでしょうね。




第105回へ続く...

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