カガワの自転車
清ちゃんの
オーバーホール日記



第323回

清ちゃんのつぶやき(その266)ア・ラモート



 先週、一台の自転車が修理で持ち込まれた。熊本に住んでいる人なら、知らない人がいないと云うくらいの有名人、新本さんの自転車である。氏の職業はケーキ屋さん、今の季節、一番忙しい時ではなかろうか?普段もカラン、カランと鐘を鳴らしながら市内を自転車で走り回っている。自転車は俗に呼ばれる実用車(運搬車)、二昔程前までは主力の自転車であり、いろんな場面で活躍していた。ところが今の時代、運搬はクルマにとって代ってあまり使用されなくなり、メーカーのカタログからも徐々になくなっていった。



 そう言えば、私が以前いた会社でも実用車のハンドル(レバー付ハンドルと呼んでいた)等を作っていた。ただ、その当時でさえも生産は年に1回、まとめて作っていた。理由は郵政省(当時)の落札メーカーからの注文のためであった。郵便配達用自転車は仕様が決まっていて、メーカーが違っていても使う部品はほとんど決まっていた。丈夫で荷物が積める働く自転車である。



 今回の修理内容は後車輪から異音がすると云うものであった。並木坂店でも手におえないと云う事で玉名店にやってきた。とにかく後車輪を外さなければならないが、順序がある。若いスタッフだと分からないと思う。この系の自転車、修理をできる昔の自転車屋さんはだんだんとなくなってきている。若い人の店だとどうしていいのか分からない。知っている店でも面倒なのでやってくれない、そんな事でカガワの自転車にやってきたと云う経緯がある。並木坂勤務の頃は氏から“ドクター”と呼ばれていた。氏の自転車の主治医みたいなものである。



 一番困るのが補修部品がない事が多いこと、そのため、郵便局の払い下げ時にまとめて購入すると云った方法をとり、部品取り車を店に数台確保してある。郵便局の自転車と判るのはハンドルに配達用バッグのためのフックが付いているからである。とにかく、この手の自転車、タイヤ一つ、今のものとは違う。所謂、BE(ビーディッド・エッジ)と呼ばれるもので巻タイヤとも呼ばれる。初めて触る人には「これ、サイズが違うんじゃ?小さいですよ?」と思うくらいである。タイヤをはめる前にはバルブ部を通すために切りかきを入れたりする。ある意味、特殊タイヤで交換にもコツが要る。



 新本さんは講演会でよくいろんな所に行かれる。自分の育った不遇の環境から今の成功に至った経緯等を面白可笑しく話される。菓子屋を始めた頃、自転車に載せて各地に売りに回っていた頃の苦労話、不遇の育ちや苦労話が笑い話に変わる、何とも不思議なキャラクターである。今でも創業当時と同じように100kg近いケーキを載せて熊本市内はもとより、阿蘇や天草(!)まで自転車で走るといった事をされている。電動自転車というのも考えられた(実際、購入もされた)が、やはり自分の足でという基本に戻り、今日も元気に走っておられる。そんな人の現役自転車なのである。



第324回へ続く...

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