カガワの自転車
清ちゃんの
オーバーホール日記



第316回

清ちゃんのつぶやき(その259)世界一周 その1



 先月中旬、一人の青年が来店、私を訪ねてである。聞くと自転車で世界一周をしてみたいとの事だった。数件のショップを回って後、玉名店の事を聞いたらしい。私も日本一周等の相談や自転車購入の相談はこれまでにも何度か受けた。しかし、世界一周というのは初めてである。とにかく話を聞くことにしたが、聞くと云うより、海外の事をいろいろ聞きたいというので、こちらが話すような形になった。主に海外での心得みたいな話がメインになってしまった。1時間半くらいは話したと思う。



 話の流れから自転車は一応、ジャイアントのグレートジャーニー1に決まった。ジャイアントであれば、世界的メーカーなので、欧米に事務所があるので何かあった場合にはサポートを受ける事ができる可能性が高いという事もある。とにかく在庫を月曜朝に確認するという事でその日は終わった。週明け、出荷の確認をすると下旬には到着しそうである。ただ、何かしら気が重い。注文書を書くのに数日要した。何が重たかったかというと、注文書を書くことによって、自転車が届く、その自転車が一人の人生を変えてしまう可能性があるからである。



 自転車で人生が変わる。普通の人達であれば、乗る事やいじる事が趣味や道楽になっていく。仕事とは別の世界への誘いである。時には脱サラして、それを職業にしてしまう人もいるが少数である。そんな楽しい方向に変わる人生ならば全くこちらも悩む必要はない。今回、最も違うのは、それが「冒険」なのである。北米や欧州といった文明国だけであれば、そんなに気にならない。ただ、南米やアフリカ、中東やユーラシア大陸内部となると話は変わる。



 もう少し、話を聞いておきたかった。本当にそう思った。これまでがそれなりの経験を積んでいるわけではない。そんな人の人生に踏み込んでいいものかと思ったのである。実はまだ大学生である。数年、修行(?)を積んで海外に出るとする、何年間の予定になるか分からないけども、帰国したら30歳を超えている。その後、就職先を捜しても、自分の希望する会社にはなかなか巡り逢えないだろうと思う。他の同級生とは全く違う人生を歩んでいかなければならないのである。以前勤めていた会社にも世界一周した人がいた。11年間の世界一周の旅である。帰ってみると浦島太郎、高度成長前期の景気はない。それでも自転車関係の仕事に就けただけよかったと話していた。



 数日してから、納期連絡を兼ねて電話をした。そして一番聞きたかった事を尋ねてみた。「御両親には話してあるの?」答えはまだだった。逆にそれで少し安心した。海外に出る前に覚えなければいけない事や知っておく事が本当にたくさんある。ある意味、自転車初心者なので走行技術の習得やら機材としての自転車の知識や技術の習得、極端な話、砂漠地帯でタイヤが破裂して走行不能になって帰国しましたでは話にならない。そして重要なのが、言語習得やら海外事情の入手方法等、隣国に行ったら紛争地域で銃弾にやられましたなんて情けない。それらを学んだり、その為には言葉の通じる、そして安全な国内を走破する事を勧めてみようと考えたわけである。その間に親を説得(ほとんどの場合、親は即OKとは言わないと思った)する時間も得られるのではないかと考えた。



第317回へ続く...

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