カガワの自転車
清ちゃんの
オーバーホール日記



第258回

清ちゃんのつぶやき(その207)チェンライン その2



 どこのメーカーの取扱説明書でもフロントをアウターの時はリヤをロー(一番大きい歯)にしないように、またその逆もなるべく使用しないようにという事を書いてある。チェンを大きくねじって使わないようにという意味である。欧州では昔からスポーツとしての自転車が盛んなことから、この事は一般常識みたいになっている。ところが新興国、アメリカでは違う。まだ後7段の頃、14段変速なのに12段しか使うなとはどういう事だ?14スピードとカタログに載せてあるのにそれでは詐欺ではないのか、訴えるぞ!となってくる。






 フロントがダブルでアウターとインナーの歯数差がある時などは、インナーとリヤのトップギヤ(一番小さい歯)にかけた場合、チェンがアウターの内側に当たり、音鳴りがする(これをチェンタッチと呼ぶ)。これは日本でも初心者向けスポーツ車で時々聞かれた事であるが、アメリカでは消費者クレーム、ノイズによる精神的苦痛、メーカーの虚偽で裁判沙汰にまで発展したと聞く。



 ほとんどの人は普段走る時、アウターを多用している。そのためいくつかのメーカーでは先のチェンタッチを防ぐためFCLの方を少し大きくしていた。つまりクランクの方を少しだけ外側にセットするという手法をとっていたのである。そうすると今度はアウターを使った場合にチェンの負担が増してくる。まだ6段、7段ではそれでもごまかしが効いていた。ところがそれ以上の段数が増えてくると初心者向けの自転車だけと言っているわけにもいかなくなった。



 MTBの出現時、創始者たちの数人はフロントがダブルだった。これがトリプルになった時にはチェンのねじれが大きくなり、各メーカー、いろいろとトラブルがあった。更にオーバーサイズのフレームチューブが出てくるともっと条件は悪くなる。どこの設計者も苦労していた。以前にも書いたと思うが歯数差のあるダブルでは変速性能が悪く、中間にギヤをもう一つ加えてトリプルにした経緯もある。トリプルになったのはいいが、更なるチェンのねじれ問題が起きてきた。チェンも薄くなり、条件は悪くなる。8段の出始め頃はよくスタート時にチェンが切れ、出走できない選手がいたものである。シマノがMTBコンポでなかなかリヤを10段化しなかったのにはそういった理由もある。



 ロード用の自転車だって例外ではないl。クランクが外側に行けば、アウターとリヤのロー側を結んだ時にチェンの捻じれ角度がものすごく大きくなる。ストレートエンドが一般化し、チェンステーが短くなると特にきびしくなる。そのため、今度はフロントディレ―ラーとチェンが当たるという現象が起きることになる。STIレバーではそれを防ぐためにトリムという少しだけディレーラーを内側に移動させる事をしなければならなくなった。



 今はフロントもリヤも歯数組み合わせが決まっているし、部品メーカー押しつけのチェンラインのおかげでコッターレスの時と違ってクランク軸の種類もいらない。そういう意味では、小売店であれこれ計算してチェンラインを出してセッティングするという苦労も要らなくなった。第一、昔みたいに替歯を持つ事が少なくなった。リヤのスプロケットを数種持っておけば用足りる時代になった。苦労するのはフレーム設計者だけで、個性的な自転車を作ろうと思っても、押し付けられたチェンラインに如何にフレームを合わせるかに悩むだけですむ。本当にいい時代になった・・・のかな?



第259回へ続く...

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