カガワの自転車
清ちゃんの
オーバーホール日記



第217回

清ちゃんのつぶやき(その170)美



 もう一カ月程前になるだろうか、初来店のお客さんと話していると「いいですねぇ、美しいものに囲まれて仕事ができるなんて・・・」と語られた。確かに自転車って本当に美しいと思える時がある。そして自転車に美を感じることのできる人は幸せだと思う。数週間前にNHKでそんな番組があったが、最初はピナレロ等がでてきてどういった展開になるのだろうと期待したのだが、途中から急にピント外れのつまらないような内容になってしまった。



 二つの車輪とそれを支える三角形のフレーム、たった、それだけの事だが美しさはある。それが高級スポーツ車だろうが、廉価もののスポーツ車だろうが共通する部分もある。時には街角に停めてあるママチャリにさえ美を感じる時がある。カーボンの立体的なモノコックフレームやアルミの油圧成型の造形、クロモリの何とも言えないシンプルさ、そしてそれらを繋ぐ処理等、いろいろな所に美を見出すことができる。



 自宅の玄関に4,5台程、自転車を置いているが、バイク(普段はバイクで通勤する事が多い)で帰った時、ヘルメットを脱ぎ、ショートブーツを脱ぎながら、ふと自転車に目がいく。そんな時にある種の美しさを感じ、そのまま玄関で見つめている時がある。これは昔っからである。学生の時も自宅でロードレーサーを1時間近く眺めていたりしていた。走りに行っても途中の休憩中、立てかけた自転車を眺めている時も多い。何が美しいのかは分からないが、とにかく美しいと感じてぼんやり見ている。



 一つには機能美というのもある。レーサーのように走るという機能を追求していけば自ずとシンプルになってくる。余計な装飾がない分、無駄が削ぎ落とされた美というものがある。ツーリング車にしても然り、泥除けやライトといったものが付くが泥除けの長さやステーの角度、ライトの位置等を調整していけばバランスのいい美しい自転車が出来あがってくる。運搬車だって、物を運ぶという機能を追求していったものはその中に美しさを感じることができる。



 クルマや鉄道、飛行機の乗り物でも速さという機能を追求していくと美しくなってくる。F1やルマンのクルマもそうだが、市販車のフェラーリの造形などにもまいってしまうくらいの美がある。来春開通予定の九州新幹線車両(今、テスト走行を繰り返している)も最初写真で見て妙な形をしているなと思っていたら、現物が走っているのを見るとやはり美しい。飛行機の中でも戦闘機は美しさが際立つ。実際の戦闘機を昔、佐世保の米軍空母で見た時には身震いする程の感動を覚えた。



 新しいものが醸す美しさ、古いものの醸す美しさ、そして時の流れを超えての美しさというものもある。美というものは人によっても、時代によっても変わるが何百年、何千年前の彫刻、絵画、建物が今見ても美しいと思えるように、今の自転車、あと何十年、何百年後、後世の人は美しいと感じてくれるだろうか?



第218回へ続く...

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