カガワの自転車
清ちゃんの
オーバーホール日記



第213回

清ちゃんのつぶやき(その167)造形



 スラムの頃で最近のシマノのデザインについて書いた。少しばかり社内事情を知っている人(社員ではない)からメールがあり、想像していた通り、内部で何かあっているようである。その何かが形になって現れてきているのだと思う。 デザインと言うと“設計”と訳される。日本でデザイナーと言うと主に外観の形状を作る人という意味で、実際に図面を引かない人の事を指す場合も多い。海外では外観の造形だけでなく、図面をひいて設計する人の事を言う。



 造形というのは本当に難しい。作る人やその会社なりのモノの考え方やセンスが形になって現れてくる。逆に言えば出てきた商品から意図するものやセンスを窺うことができる。出来上がってみれば何てことのない製品でも、その裏には計り知れないデザイナーの苦労があったりもする。自分でも設計に携わっていた関係からそのような苦労を理解する事が出来るようになった。新しいクルマや製品が出てもデザイナーが苦労した部分や世に出る前の形状がどうだったかも推測できるようになった。



 デザインは時間をかければ良いものが出来るとは限らないし、あまり苦労することなく思うようなものが出来たりすることだってある。これは本当に不思議である。ただ、このような事は極くまれで、何らかの苦労は必ずといっていいほどある。あれこれ検討した結果、元に戻るといった事さえある。モノ作りにはこれで終わり、これで完璧という事はない。常に動いていくものである。逆にそれが面白いし、一つの製品が出ても、次のものがすでに考えられている場合も多い。



 ここで製品が出来るまでの過程を簡単に述べるなら、先ずはユーザーやメーカーが何を欲しているかを把握することから始まる。需要の開拓である。そのためにはユーザーやメーカーの人たちと接することから始まる。もちろん、世の中の流れも見るように心がける。レースやイベントにも出かけていく。そこでどんなものがどんな人達に求められているのかを掴みとるわけである。その後、それらを頭の中で整理して製品に対するコンセプトを構築する。もちろんこの過程で従来製品の一部の改良、マイナーチェンジで済むものもある。



 それが決まったら外観デザイン、頭の中に芽生えたアイデアを平面上でスケッチすることからスタートする。何枚も何十枚も或いは何百枚ものスケッチが出来る。一つの考えの下だが、その形は無限にあると言ってもいい。これが製品単品ならまだいいのだが、コンポとなるとグレードの縦横上下の統一デザインも考慮しなければならない。そうやって苦労して外観を決めていく内に他の要素も出てくる。どうやって作るか、加味される要素がたくさん出てくる。組み合わせる部品の材質、寸法、コスト、強度、いろんなものを併せて考えなければならない。場合によっては使うボルト長さに左右されて外観を変えなければならない時だってある。



 いくつかの案に絞り込んだら次は立体での検討。今はCADなどがあり、画面上で立体を見る事ができるものの、最終的には手触りが出来るモデルを作る。木型やクレイ(粘土)、或いは金属モデルで検討される。ここら辺が一番デザイナーの苦労するところかもしれない。平面上のスケッチやCADの画面に表れない部分がある。そこを修整するのが感性というか手触りである。ここで迷ったり悩んだりしたものが最終的には製品になって表れる。スタッフ内部でトラブルがあればそれでさえ何らかの形で表れてくる。造形とはそんなものである。



第214回へ続く...

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