カガワの自転車
清ちゃんの
オーバーホール日記



第210回

清ちゃんのつぶやき(その164)足摺岬



 先週、ランドナーで海を渡った。目的地は足摺岬。四国、高知県である。実は夏ごろから計画していた。きっかけは雑誌に坂本竜馬とジョン万次郎の話が載っていたのを見たからである。その昔、足摺岬には自転車で行ったことがある。もう30年以上も前のことである。ジョン万次郎と聞いた途端、その時のことが思い出された。福島県のいわき市から自転車で旅行していたNさんと小豆島で知り合い、途中までルートが同じだったため、一緒に数日間四国を走った。足摺の金剛福寺のユースホステルで2人(泊り客は我々二人だけだった)で夕飯のお櫃のご飯を全部たいらげてペアレントから呆れかえられた思い出がある。



 その時、ジョン万次郎の話を聞かされ、生まれた所がその近くにあるという事を聞いた。急に昔が懐かしくなって足摺岬に行ってみたいと思ったものの、夏の一番暑い盛り、少し涼しくなってからにしようと考えていた。5日程度の休みがあれば全行程、往復自転車で行けるが、そうはいかない。昨年、クルマで高知まで往ったフェリーを利用することにした。大分の佐伯市から高知宿毛間の宿毛フェリーである。



 ただ、このフェリー、一隻しかない。片道3時間、それを一日24時間、3往復するのである。佐伯発は午前3時と午前11時、午後8時の3便、行くのなら先の2便しかない。しばらく迷った。午前3時なら到着は朝の6時過ぎ、これなら一日中走ることができる。ただ、仕事が終わってすぐに出ないといけない。睡眠時間はフェリーの中の3時間のみ、午前11時の便なら到着は2時過ぎ。足摺岬で宿をとっておいたとしても夕暮れまでの4時間足らずで辿り着けるか心配だった。秋の夕暮れは早い。日没後、知らない道を、宿を捜しながら走る心細さを何度も体験しているだけにそれは避けたかった。



 強行日程だが、この気候、途中の木陰で昼寝してもいいかなといった気持になる。仕事が終わり、帰ってから食事、洗濯、風呂と済ませ、午後11時には家を出る。夜の57号線は高速道路並みである。道路の夜間工事には数度ひっかかったものの、午前2時には佐伯港着。クルマを駐車場(往復切符を買うと1週間は無料)に停めフェリーに乗り込む。乗り込んだ途端に安堵感からかすぐに眠れた。



 宿毛港、朝6時半頃着。少し肌寒い。トイレで洗面。昔だったら定食屋があり、そこで朝食となるのだが、港町にさえなくなってきた。ただ、コンビニがそれに代わるものの、やはり味気ない。とりあえず足摺半島の西側ルートを走り始める。四国はご存じの通り、平野部が少ない。海岸線だってアップダウンの連続である。おかげでそそり立つ断崖を見る事ができるのだが、途中、道が狭くなっている部分がある。昔を思い出した。まだ未舗装の道も多かったし、今のように広い道は少なかった。そこをキャンピング車で上った記憶がある。



 昔を思い出すといったら、お編路さん。今回も宿毛を出てから何人ものお偏路さんとすれ違った。四国に来たなあという気分になる。四国を何日も走り続けているといくつかのお偏路さんのグループといろんなところで偶然に会う。「この前、○○寺にいたよねぇ」等と声をかけられる。おかげで一緒にお参りしているうちに般若心経を覚えてしまった。あの独特のリズムというか、今でも唱えることができる。お偏路さんにも自転車で回っている人もいた。今日もクロスバイクで元気よく挨拶していく若者と擦れ違った。のんびり走って昼過ぎには足摺岬に到着してしまった。



 着いたところで、このまま泊まる所を捜すには時間が早過ぎる。周辺をあちこち走ってから土佐清水まで東ルートで戻ることにした。途中、小さな漁村の小さな店で遅い昼食。お勧めは?と言うと「刺身定食」と言う。注文すると結構量がある。3種類の魚の刺身に揚げ物、煮物まで付いている。満腹になったところで走り出す。土佐清水に着いたところで急に眠気に襲われる。やはり3時間と云うのが効いてきた。公園の東屋でしばらくうたた寝する。今日はここに泊まろうと思い、素泊まりのビジネス旅館を捜して行く。風呂に入り、夕方でまだ早いが就寝。この後13時間爆睡。



 朝、起きてから出発、第一回の朝食はコンビニで味気なく済ませる。今は四万十市となっているが、昔の中村市に向かう。10時ごろには着く。ここで二度目の朝食。四万十川の鰻定食である。なかなか美味だった。時間があるので佐田の沈下橋まで行くものの、風が強く土手の道は遮るものが何もなくてきつかった。四国は四万十川が清流として有名だが、四万十川に限らず、小さな川でさえ澄んでいる。そんなこんなで宿毛までの単調な道を進み帰りのフェリーに乗り込み、九州に戻る。途中、竹田付近の温泉に寄り、疲れを癒して熊本に帰ってきた。



 今回、気候も暑くもなく寒くもなく、楽しい旅をすることができた。それにしてもこんな紀行文、読んでいる人には楽しくないと思う。やはり楽しむためには自分で走ってみる事だと思う。知らない土地を走る楽しさ、この先、どうなっているのか不安と期待が入り混じる。今回、本当に旅らしい旅をしたと感じる。皆さんも、せっかく自転車を持っているのであれば、もっと知らない所に行ってみる事をお薦めする。そこには楽しい思い出が貴方を待っているかもしれない。



第211回へ続く...

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