カガワの自転車
清ちゃんの
オーバーホール日記



第211回

清ちゃんのつぶやき(その165)SRAM



 先だってスラムの2011カタログを見ていて感じた。すごく良くなってきている。何が良いかと言うと、先が明るいからである。質や外観上のデザインが洗練されてきた。日本での取扱いはジャイアント・ジャパンだが、ジャイアントが育ててきただけのものになってきつつある。将来を見通せる、かなり優秀なプロデューサーがいると思う。いろんな会社で作らせた製品を上手く組み合わせて統一感のあるコンポに仕上げてある。昔のサンツアーを思い出す方もいると思うがスラムの方が一枚上手という印象を受ける。ヨーロッパのレースでも使われ、今年もツールドフランスを制したパーツメーカーである事を知っている人も多いと思うが20年前にこうなる事を予測した人はどのくらいいただろうか?



 1990年代初頭、一つの変速レバーが登場した。レバーと言うと語弊があるが、俗に言うグリップシフトである。当時、開発部門にいて、入手したものを見た。その時の感想が、とにかくシンプルであるという事だった。基本はグリップ部と本体部の樹脂パーツ、それに板を曲げただけのスプリングといった非常に単純な構造でシマノと互換性がある。今もそうだが、インデックスになってからというもの、メカニズム部が精密かつ複雑になりすぎている。ダブルレバーの頃には2000円もだせば買えたものが、インデックスが付いたために倍以上の価格になった。そんな中、樹脂製の単純構造の廉価なシフトが出た。メーカーがこれを見逃さない訳がない。そうやって完成車メーカーの一般スポーツ車(数は出る)に次々と採用されていった。



 最初はシマノもあんなもの、すぐに消えていくだろうと考え、気にも留めなかったと思う。ところがスラムもしぶとかった。数を売る内に製品の欠点も見えてくる。それを改良としていく内にその種類も増えてきたし、信頼のおける製品になってきた。シマノの納期や価格に左右されず生産や販売を続けていきたい完成車メーカーからも頼りにされてきた。そうしてそれらのメーカーのバックアップもあり、スラムはシフターと組み合わせるディレーラーにも着手していく。MTBブームの追い風を受けスラムのシェアは拡大、一つのコンポメーカーへと成長していく。そうして2007年にはロードのコンポ、ライバルを発表、まさにシマノのライバルとしての地位を宣言した。



 今、シマノは一つの曲がり角にきていると思う。取扱い製品も多くなりすぎていて、他品種化する自転車に対応しにくくなってきている。一つの例がロードコンポである。クロモリのロードが流行ってきているのだが、これに合うようなデザインのチェンホイルがシマノにはない。カンパの方がまだ合うし、スギノやトラバティブ、FSAなどが完成車メーカーに採用されている事が多い。シマノの一つの間違いは競技向けのデュラエースのデザインを従来の手法で下部コンポにまで展開したことにある。あのカブトガニクランクでは細めのフレームには似合わない。105より下のコンポでは必要性が無かったのではないかとも思う。コンパクトクランクのショートアームに至ってはグロテスクささえ感じる。もちろんMTB用4アームのものでも似合わない。確かに高剛性のクランクは必要である。ただ、競技用は別として、剛性が高ければいいといったものではない。 



 今のクロモリフレームブーム、太く、強くなりすぎた自転車、それらへの反発もあるのではないかと思われる。それに現在のシマノ製品、チェンホイルだけでなく、何かデザインが独りよがり的な感じを受ける。社内がどうなっているか知らないが、工業デザインをやっている人でなく、グラフィックデザインをやっているような人がデザインしているのかもしれない。近年のコンポを見るにつけ、そういった印象を受けるし、何か妙な奢(おご)りさえ感じる。はっきり言って、今のままではシマノはスラムや他のメーカーに浸食されていく。スラムだけでなく、マイクロシフトのコンポなども完成車に搭載されてきた。まだまだ未熟な製品かもしれないが、改良していけば軽量で使いやすいものになる可能性を秘めている。2011年のスラムとシマノのカタログを見ながらそんな事を考えた。



第212回へ続く...

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