カガワの自転車
清ちゃんの
オーバーホール日記



第204回

清ちゃんのつぶやき(その159)野宿



 やっとと言うか、朝晩に少し涼しい風が吹くようになってきた。とにかくも、猛暑というより酷暑といった夏だった。自転車で走り始めてあまりの暑さにコース変更をして帰ってくるという事もこの夏には何度かあった。そう言えば8月末、以前に自転車を購入されていた方が来店された。点検のためである。聞けば自転車で名古屋まで行ってきたとの事である。昨年は夏の終わりから北海道に行き、南下されたNさんがおられた。今年はMさんである。購入前に名古屋の親戚の所まで行ってみたいと話されてはいたのだが、今年実行とは思ってもみなかった。それもこの夏にである。



 単に山陽道を通っての往復道程ではない。九州から四国に渡り、四国から紀伊半島、桑名から名古屋といったルートである。帰りも京都から山陰道、山口の萩を抜け、九州別府、九州山地を超えて帰りついたとの事である。約2500km、21日間(内3日間は台風のため走らず)の旅である。自転車はランドナーではない。ロードレーサーである。フェルトのZ5、カーボンモノコックだが、フレームスケルトンも初心者向けでホィールベースも長め、確かにツーリング系のロングランも可能である。



 宿泊はホテル等で荷物も少ない。シートピラー付けのキャリアに荷物を載せてである。行って本当によかった、いい思い出を作ることができた等の話を聞いた。そんな話を聞いていると自分の心にも旅に対する感情が湧いてきた。今年、ランドナーに乗り始めて以来、妙に旅心を刺激されるようになってきた。昔はどこかに行きたいと思ったらすぐに実行していた。テントも持たず、グランドシートとシュラフだけ、宿がとれなかったら、その時は、その時と気軽な気持ちで出かけていた。おかげでいろんな所で野宿した。



 春や秋は野宿するのにもいい季節である。蚊や虫に悩まされることも少ない。尚、今回で言う野宿とはテントを使わない宿泊のことである。春だとレンゲ畑の中に寝たこともある。材木置き場やお寺の軒下、無人駅や海辺の倉庫、いろんな所で寝た。何か東屋でもあれば最高の気分になる。それが墓地でも屋根があるというだけでありがたい。野宿は街中の公園などではやらない。水道やトイレがあるのは便利だが、夜になっても人が通るし、職務質問の警官から起こされるのもいやである。今では町と町の間も住宅や店で埋まってきたが、昔はそうではなかった。その辺りに人が来ないような場所を見つけて寝てしまうのである。



 もちろんテントを持って行くときもあった。今ではテントを張る場所も限られるが昔は適当な所で張って寝ていた。ところがテントを張ると目立つし、張る時間や撤去する時間がもったいない。野宿は早めに食事を済ませ、暗くなったら寝る。陽が昇ったら起きて出発というのが鉄則である。朝食は前日買っておいたパンでもかじって、ちゃんとした朝食は走り出してから捜せばいい。そうして朝の通勤時間帯になった頃に食堂で食事、混雑を避け、走る時間も稼げる。自然に逆らわないのが旅の流儀である。



 毎日だとさすがに疲れてしまうので、数日に一度。もちろん雨の日にはやらない(何度かやったこともある)。宿泊代をうかせるのと距離を稼げるからである。夜、7時頃には寝て、4時か5時頃には起きる。今でもそんな習性が残っているのか、畳みの上でそのまま寝てみたり、冬はコタツで寝ることも多い。硬い床でも平気である。いつでもホームレスになれる素質は持ち合わせている(?)。よく、寂しくないか?怖くはないのか?と聞かれることもあったが、自転車で一日中走った後はよく眠れるし、場所もここはやばいとか、ここなら安全とかの判断が無意識の内にできるようになってくる。自然と共に行動していると動物的な勘が働いてくるのだろうか?



第205回へ続く...

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