カガワの自転車
清ちゃんの
オーバーホール日記



第158回

清ちゃんのつぶやき(その119)後継者



 先日、東京に行ったと書いたが、各展示会の会場で昔馴染みの人達と会った。もちろん、我々と同じ業者でありショップを営んでいる。数人は「これが息子です」と紹介してもらった。もうそんな時代になっているのかと妙に感心した。個人的に昔からお世話になっている上野の老舗にも顔を出した。台東区だが、しばらく前までは100軒近くの自転車屋があったが、今はたったの3軒だけだという話も出た。



 これは台東区だけの話ではない。全国的にそうなってきている。ここ熊本に越してきてから15年たったが、来た頃にはまだ店がいくつもあった。それが一つ減り、二つ減りとしている内に気がつけば結構な数、なくなっている。ほとんどが高齢化のため廃業に至っている。後継者がいないのである。子息がいても、後を継がせなかったのは自転車が儲からないといった意味なのか、自転車そのものに魅力がなかったのかだろうが、どっちにしても問題である。



 自転車そのものの台数は考えるほど減ってはいない。実際、街を見てもらえば実感できるが、自転車置き場には溢れかえらんばかりの自転車が並んでいる。ほとんどがホームセンター、ディスカウントストアー等で販売された廉価ものである。このような所で修理までやってくれるところは少ない。そのため、残っている自転車店に持ち込まれる。修理の数が増えてきても一軒の自転車店では捌ききれない。そのため都市によっては修理専門業者まで出てきているところもある。店では持ち込みの一般客のものを、作業場では提携しているホームセンターから委託されたものを修理する。



 後継者の問題は自転車店に限ったことではない。フレームビルダーでも同じようなことが起こっている。ほとんどがスチールパイプを溶接して作っているが、スチールのフレームの需要が減ったことや高齢化のために廃業するところも増えてきている。ところがクロモリフレームの需要は根強く、近年のピストブームでまた見直されている。書店で見かける雑誌にも取り上げられる機会も増えてきている。この先、もっと増えてくるかもしれない。



 増えてきて困るのがフレームビルダー達である。需要が減り、ビルダーの数も減りして何とかバランスを保っていたのが崩れてしまう。生産が追いつかなく、場合によっては断られてしまう。メーカー車でもクロモリフレームの車種が増えてきているものの、メーカーの既製品では満足できない人達も多い。幸いなことに、知り合いのフレームビルダーの所には時折、手紙やメールが舞い込む。フレームビルダーになりたいが教えてもらうところがなく、弟子にしてもらえないかといった内容である。ただ、困るのが、はいそうですかと簡単に返事できないことにある。



 フレームを作るには、それ相当な技術が要る。それらを習得するのには時間もかかる。一人前になるまで数年かかる。マイスター制度というか、ビルダー養成講座というか、職人訓練所みたいなものがあればと思う。ヨーロッパでもビルダーの数は激減している。ナガサワやキヨ・ミヤザワみたいに単身イタリアに渡って修行をする、そんな時代ではなくなってきているのである。

第159回へ続く...

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