カガワの自転車
清ちゃんの
オーバーホール日記



第13回

清ちゃんのつぶやき(その9)プロ意識



 どんな職業でもそうだが、プロがいる。自転車界を見ていても、この人はプロだと感心することも多い。話をしていても、知識があり、自分の考えを持っている。技術的にも、工具の握り方一つ見ても、やるなっと感じることもある。



 最近の店では、自転車は好きなのだろうが、プロ意識に関しては、?と思ってしまうところもある。知識が偏っていたり、経験が不足しているのか、口ほどには技術がなかったりしている場面が見受けられたりする。割と東京や大阪の都心部に多い。ただ、怖いのがこのような店でも、都会ではなりたっていけるのである。時には金儲けがメインなのか、この人は本当は自転車が好きではないのではないか等と疑ってしまうような店もある。



 プロとは何だろう?卓越した知識や技術をもって、仕事を貫徹させることのできる人というだけではない。更に、それで人を喜ばせることのできる人である。



 熊本の川尻という所に住んでいる。かつては年貢米や木材の出荷等で栄えた町である。そのため、今も刃物や桶といったものの職人さんがいる。見ていると一つの桶を作るのに数十種類の道具を使う。できた桶は本当にきれいな円である。すごいなぁと声をかけると、それを言うなら使ってみてからにしてと言われた。何十年使っても、水が漏れないよ、とのこと。使う側にとってはいいものは、そうと気がつかない事が多い。でも、何十年も使ってそのことに気がついた人が笑顔で来てくれる、それがやりがいだと語っていた。



 サービス業に関して、欧米ではチップという習慣がある。日本人にとっては馴染みのない慣わしである。初めての海外で戸惑った人も少なくないのではないだろうか。実はこれがプロを育てる一つの方法である。レストランに入る。テーブル毎に担当のボーイがいる。メニューを見て、分からないものをたずねる。それは子羊の肉を数日間煮込んで、どこそこ産のトマトをベースにしたソースをああだらこうだら等と一つ一つ答えてくれる。スープが出てくる。味噌汁だとアツアツのものが出てくるが、熱すぎず、温すぎず、すぐに飲める温度で持ってくる。飲み終える時間を計算し、次の料理を出す順序を厨房に指示する。客によって食事のペースは違う。それを見極め、的確にいい食べごろの料理を提供する。これがプロである。



 値段は高いのに、アルバイトでメニューの料理も全部覚えていない。食べ終えたのに次の料理がでてくるのに、えらく時間がかかる日本とは大違いである。このプロの行為に対して個人的に渡すのがチップである。優秀な者ほど、その収入も多い。逆にチップを得るために努力をして、腕を磨きプロになっていく。人を喜ばせるためには何をしたらいいのか、料理の知識だけでなく、客に合わせたユーモアを混ぜた会話ができるようにする。そのため、さまざまな知識が必要になっていく。プロになるためには勉強も必要になっていく。



 先に人を喜ばせるのがプロだと書いたが、自転車店の場合、その人に合わせた話し方ができるというのもプロである。よく、どこそこの店に行ったが、初心者には冷たいとか、分からないことを言われたとか聞く。難しいことをいかに簡単に説明できるかというのは意外と大変である。ただ、それを出来るというのは本当のプロである。自転車店に限った事ではないが、ある店に行って、帰りに何となく嬉しかった、良かったと思える、それはプロの店に行ったという証拠である。

第14回へ続く...

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