カガワの自転車
清ちゃんの
オーバーホール日記



第114回

清ちゃんのつぶやき(その87)金型



 前回、金型の話を書いた。今回、皆さんには、あまりなじみがないかもしれないが、この金型の話をしてみたい。自転車部品に関わらず、いろいろな工業製品を作るには金型が要る。製品の出来、不出来には重要な役目を果たす。同じ図面で発注しても、出来た製品が違うといった事がおこる。まさかと思われる方々もおられると思うが、実際、そうである。金型屋によって、うまいへたがあるし、得手不得手といったジャンルがある。



 一口に金型といっても金属用のもの、樹脂用のものなどがあるし、さらに金属であれば鍛造用、鋳造用と種類がたくさんある。製品の精度を出すためには重要なものである。一概に、削りだしと呼ばれると価格が高く、精度も出ていると思われがちだが、これは量産出来ないがための手段であって、精度も出しにくい。



 ここで製造方法を簡単に述べたい。鍛造とは製品を作るのに、叩いて形を整える方法である。例えば、アルミの左クランクを作るとする。これを丸い棒状の材質から叩いて成型する。もちろん、一回叩いて、できるものではない。何回も叩いて、少しずつ形を整えていくのである。ここで金型屋のノウハウが生きる。どのくらいの硬さのアルミの材質を何トンの力で押せばどういった形になるのか、材質の伸び率や熱による収縮率等を計算するのである。



 これは鋳造品でも同様である。鋳造とは鋳型に溶けた材質を流し込んで作る方法である。プリンみたいなものと考えればわかりやすいかもしれない。作られる製品に合わせ、肉厚の薄い部分とそうでない部分の計算をし、金型から取り出して空気が当たることによって品物が収縮する、それらのことを見越して金型をつくるのである。計算だけでちゃんとした製品ができるかというと、そうでもない。ここで金型屋というか、職人の腕が発揮される。



 少し前にTVでトヨタの車のボンネットを作る職人の番組があった。一枚の鉄板からボンネットを作るのだが、一見、ちゃんと出来ているように見えるが、目で見、指で触ることによって、ミクロン単位のわずかな歪を見つけ、それを修正していく。これはプレスの金型職人の話だったのだが、関心をもって見た。このような職人さんたちが、製造業が盛んな頃にはたくさんいた。



 台湾や中国に製造の拠点が移ってしまった頃、働くのは現地の人たちだが、製造の機械や金型は日本から持っていっていた。今では、製造機械や金型屋さんも現地に進出して、製造業を営んでいる、そういったケースも少なくない。大幅リストラや製造縮小といったニュースを見るにつけ、そのような職人さんたちを思い出す。ちょっと変わってはいるけれど、いい人たちがたくさんいた。今回はちょっと硬い話になってしまったが、次回は柔らかい話を書きたい。

第115回へ続く...

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