カガワの自転車
清ちゃんの
オーバーホール日記



第113回

清ちゃんのつぶやき(その86)初回モデル



 今年もあと一か月足らずになってきた。やっと、と言うか、09モデルの現物を見たり、触ったりできるようになってきた。今年は年初めから原油高や材料不足といった問題があり、新製品を作るにも様々な障害があったようである。出荷にしても、相当な遅れがあったと聞く。自転車は様々な部品でなりたっている。ブレーキ一つ、足りないだけでも出荷できない。ペダルくらいだと、後からパーツ箱に入れて出荷すればいいが、ヘッドパーツやBB等はそうはいかない。フレームに組み付けなければならないからである。



 今年は例年になく、各社、苦労したと思う。値上がりした材料で、いかに製品のラインナップを組み立てるか、価格設定や仕様等、カタログを見ても努力の跡が見て取れる。部品メーカーにしても、スプリングひとつ揃わなくて、ディレーラーができない、組み立てラインが止まってしまうという結果になる。納期にしても、例年なら商品を切らしたことのないG社でさえ、今年は予定より大幅に遅れるといったことになった。



 さて、出来たばかりの新製品だが、すぐに飛びつく人とそうでない人がいる。新製品と言っても、フルモデルチェンジとマイナーチェンジがある。フルモデルチェンジの場合、本当は少し時間をおいてから購入した方いい。これは経験からであるが、初回ロットには何らかのトラブルがつきものである。トラブルと言っても、些細なものからリコールに結びつくようなものまである。



 事前にどんなに強度計算や実走テストをしても、市場に出せば考えられないような問題が出てくる。実際の使用がメーカーの想定している以上、または以外の使い方をされているためである。使う側も乗りなれた人ばかりではない。初回ロットのものを出せば、市場からの反応がある。一つくらいならたまたま、二つ出ると偶然、三つ出るとクレームの匂いがする。そのあたりからメーカーも動くのだが、金型や生産ラインの一部だけ、少し変更すればいいものから全面見直ししなければならないものまである。



 今の時期が生産に関わった人達が一番ピリピリする時期でもある。やっと生産を終え、初回ロットを出荷した。本来一番ほっとする頃である。ところが、市場からのクレームが発生、師走にパーツメーカーや金型屋に走り回らなくてはならない。まだ日本で生産していた頃なら何とか早期解決できたであろうが、このご時世、台湾や中国が相手だとなかなか思うように動いてくれない。そんなジレンマに陥っているメーカーの人たちもいるんだろうなと想像する。



 そういえば、今の時期、茨城から新潟まで往復したことがある。工場が終わった夕方に金型を取り外し、それから金型屋のある新潟の三条市まで向かった。修正を終え、工場に戻ったのは真夜中である。工場長や数名がまだ残っていてくれた。それから取り付け、試打ちである。朝には工場は稼働する。それまでにはセッティングを終えなければならない。工場内には寮があった。あとは俺たちでやるから、お前は休めと言われ、そこで一泊したのだが、明かりのついた工場と茨城の星の多い夜空を眺めながら眠りについたことは今でも忘れられない。日本の製造業がまだまだ元気だった頃の事である。

第114回へ続く...

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