カガワの自転車
清ちゃんの
オーバーホール日記



第78回

清ちゃんのつぶやき(その65)刻印



 新しいパーツを眺めているとマーキングが良くなったなぁと思う時がある。鍛造品であれ、鋳造品であれ印刷である。印刷の技術がすすんでいる。少しくらいひっかいても消えない。この印刷、電化製品等ではそれ以前からあったが、自転車製品で最初にとりいれたのはカンパニョロである。後期スーパーレコードのリヤディレーラーからスタートした。以前、紹介したメルシェにも付いていた。ただし、クランクやブレーキといった、その他のパーツはまだ刻印のままだった。



 その後、コルサレコード(Cレコ)が出て、刻印に戻ったが、その後はスーパーレコードに刺激されたか、他メーカーで印刷品が出てきて、本家のカンパも印刷になってきた。今では刻印のものを捜すのが難しいくらいになってきた。刻印はギヤ板等の平面部に押す場合にはそう難しくないのだが、クランクやブレーキといった曲面に押すのはかなり難しい。



 以前、刻印について調べた事がある。刻印の深さや幅、溝の角度等である。カンパニョロのそれは他社のものに比べ、とにかく素晴らしかった。平面上にある刻印も深さや幅が安定している。シートピラー等の円筒形では、そばやうどんのめん打ち棒のようにピラー部を刻印の上で転がしたりする。その場合、押し始めと押し終わりには肉の盛り上がりが出る。ピラー径に合わせた凹状の刻印を使ったりしても、溝の角度によって同じ様な事が起こる。その点、カンパニョロの場合、それらが克服されているのである。



 実に不思議で、同じ模様のものを数種、刻印屋に頼んだ事がある。角度や幅を微妙に変えたものである。いくつも試した結果、そこそこのものは出来たが、カンパニョロには及ばなかった。そこで、当時、M工業におられたN技術部長をたずね、その話をしたことがある。カンパニョロ製品には詳しかった人である。言われた一言、「ミケランジェロを生んだ国だよ、彫刻の本場だよ。」妙に納得してしまった。



 そんな目で同じイタリアのチネリのハンドルやステム等を見ると、確かに違っている。カンパニョロには及ばないが、刻印がきれいである。研磨することを見越しての深さや幅が考えられている。何気なく使っている部品、たまにはそれらをじっと見つめて、あれこれ考えるのも楽しいかもしれない。

第79回へ続く...

目次

清ちゃんへのお便りをお待ちいたしております。