カガワの自転車
清ちゃんの
オーバーホール日記



第48回

清ちゃんのコレクション(その7)ワンタッチピクニカ



 最近、コレクションシリーズがご無沙汰になっている。別に出し惜しみしている訳ではない。暑くて、押し入れから出したり、天袋を開けたりするのが面倒なだけである。また、出してしまったらしまわなければならない。コレクションを持っている人だと解ると思うが、一度出してしまったらそれを眺めたり、触ったりで数時間、または深夜までかかってしまう。夏の昼間はもちろん、熱帯夜にも出したくなかったのが本音である。



 さて、今回はブリヂストンのワンタッチピクニカである。押し入れではなく、玄関に立てかけているので出しやすい事が今回の紹介になった。先に同社でいくつかの仕事をさせてもらったと書いたが、これもその一つである。写真のものは初期型に近い。目的は名前の通り、ワンタッチで折りたためる自転車である。折りたたんだものはゴルフバッグの大きさになるというものである。当時のセダンが後トランクに、いくつゴルフバッグが入るかというのを売り物にしていた。そんな時代のものである。もう20年以上にもなると思う。



 この自転車、”ワンタッチピクニカ”という以前に、”スニーカー”という名で開発の頃は動いていた。ところが、商標登録に抵触するという事で先の名に落ち着いた経過もある。ほとんどの折りたたみ自転車がクイックレバーを回したり、フック状のレバーを外したりしなければならない中で、片手で、それもたった一ヵ所を操作するだけの折りたたみ自転車、意外と面倒になり、折りたたみとして使っている人が少ない。特に女性ともなると機械的な操作はタブーである。それに持ち上げる時のバランスもある。その点、この自転車はそれらを全て解決している。



 折りたたみ機構だけではない。後期型は価格を抑えるために普通のチェンになっているが、初期型は特殊なピッチのチェンを使っている。トランスミッション自体をコンパクトにし、重量を軽くしている。これはシマノがフリーハブを作った事に端を発する。フリーホィルだと歯数的に限界がある。当時の6段でも最小歯数は13T、これがフリーハブになってからは12T、更には11Tまで出来るようになってきた。当然、同じギヤ比であれば、フロントの歯も小さくてすむ。車輪が12インチと小さいので、普通ならフロントギヤは大きくならざるを得ないが、見た目にもバランスよく仕上がっている。



 ちなみに、フロントギヤは鍛造クランク、チェンリングもアルミの半削り出しといった贅沢なものである。チェンケースもふにゃふにゃしたアルミではなく、少しくらいぶつけても曲がらないくらいの厚み、構造になっている。この他にも、ハンドル内蔵の鍵、写真のものでは普通のペダルになっているが、アルミの折りたたみペダルが採用されていたりと、様々なアイデアが盛り込まれていた。樹脂ホィルも目新しかった。このホィルデザイン、当時の技術部長がBMWのオートバイを所有されていて、そのホィルデザインと共通するものがある。



 実際に所有し、乗ってみると最初は不安定である。小さい車輪、幅の狭いハンドルがそうさせているが、乗っているうちにだんだん馴れてくる。それにしても、一つのコンセプトを元にさまざまなアイデアを出し、それらを一台の自転車に凝縮していく。そんな一連の作業は大変だったに違いない。かといって悩むところは真剣に悩むが、その中にも遊びの要素が盛り込まれている。現在の自転車を見るにつけ、開発者がコストや製造拠点の問題で様々な制約を受けているのが分かるし、別な意味で大変なのは理解できる。しかし、こんな時代だからこそ、今回のような画期的な自転車が必要なのではないか、そんな事を考えている。

第49回へ続く...

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