カガワの自転車
清ちゃんの
オーバーホール日記



第173回

清ちゃんのつぶやき(その132)製造業



 トヨタ車のリコール問題が連日マスコミでとりざたされている。今回の問題は今の製造業全般に言えると思う。別にトヨタに限ったことではない。今回のことは現在の製造業が抱える問題点を全て含んでいると言える。部品調達のグローバル化、効率重視の生産体制、コスト軽減方式の偏重等、自動車に限ったものではなく、電化製品をはじめ、我々の身の周り全ての工業製品に言える。自転車業界も例外ではない。あのシマノだって日本ではほとんど製造しておらず、中国やマレーシア、シンガポール等で生産されているものが多い。いつトヨタと同じことが自転車に起こっても不思議ではない。



 勤務する玉名店の近郊にはパナソニックやブリヂストン(いずれも自転車ではない)をはじめ、大手電子部品関連会社の工場がいくつもある。お客さんの中にはそれらに従事している人も多い。雑談の中で様々な話を聞く。リストラをやったが為に生産効率が悪くなったなどその典型的な例である。人手が足りなくて効率が悪くなったのではない。ある種の職人達がいなくなったのである。職人と言うといかめしい面構えをしているおやじを想像されるだろうが、何てことのないおじさんやおばさん達である。



 作業中、おしゃべりをしているようなこれらの人達の中には特殊能力(?)を持った人達がいた。生産機械が稼働している中、音だけを聞いて何か不具合があると感知するような人である。普通の人が聞いても分からない。そこで一時機械を止め、器用に自分達で調整する。そして稼働、こうやって不良品が出るのを防ぎ、生産性を向上させていた人達がいた。その人達がいなくなると機械が壊れるまで動かす、不良品のまま出荷するといった事が起こってくる。機械が壊れてもその場で修理するとか調整する人がいない。機械メーカーを呼ぶ。ところがこの機械メーカーもリストラで新人しかいない。機械が直るまで数日かかる。その間生産は止まったままである。そんな事が各地で起こっている。



 強度計算やベンチテストを繰り返しした製品でも、現場で流し始めると「これじゃ、強度が足りないんじゃないの?」とか言ってくれる現場責任者がいた。案の定、市場に出すと不具合が出てくる。その報告をすると、すでに金型を修正する準備を整えてくれている。こんな人達が昔の生産現場にはたくさんいた。おかげで日本の工場は不良が少なく、納期を守るといったイメージが世界に定着した。市場に出して一カ月以内で不具合が出ればランニングチェンジで改良を加えていけばダメージは少なくてすむ。半年もして出てくるような不具合が一番やっかいである。今回の事件は製造に関わる人達への警告でもある。



 確かに生産性の効率化は重要である。リストラをした分を新しい製造機械で補う、人間のミスをなくしている。ただ、その機械を設計、製造、管理するのはやはり人間である。思うに、ある種のいいかげんさというのも必要なのかもしれない。工程の一つ一つの時間を測り、生産効率の見直しをしていくような作業も必要であるが、それだけでは効率のいい生産をするだけで、不良品をなくしていくといった根本的な解決にはならない。これまでの日本の製造業を実際に支えていたのは優秀な経営者や卓越したアイデアを出す設計者ではなく、現場で働くおじさんやおばさんだったのかもしれない。

第174回へ続く...

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