カガワの自転車
清ちゃんの
オーバーホール日記



第154回

清ちゃんのコレクション(その36)シマノ・デオーレ



 デオーレと聞いて何を思い浮かべるだろうか?ほとんどの人はシマノのMTBコンポネントを頭に思い浮かべると思う。今回のコレクション、そのデオーレの初期モデルである。見てもらえば分かるが、相当ごつい。実際、重量もアルミ製でありながら、今の部品に比べれば重たい。写真のものは50×40Tでスポルティーフ用だが、他にも48Tアウターやトリプルモデルもあった。そう、初めはツーリング用として作られたものである。



 発売されたのは80年代、当時、自転車界では二つの波が流れようとしていた。一つはAXに代表されるエアロブームの波である。実際、これはロードでは潮流になってきていた。もう一つは自転車後進国と思われていたアメリカのマウンテンバイクの波である。初めは西海岸でほんの一握りの若者が自転車を改造して山道を走っていたに過ぎなかった。それがだんだんと広がり、初めはサンツアーがその波に乗った。その流れをしばらくは静観していたシマノも、ついにその波に乗り始めた。そこで発表したのがMTBとしてのデオーレシリーズである。ついでに言えば、600シリーズ(現アルテグラ)も最初はツーリング用として出された。



 MTBも初期のゲイリー・フィッシャーの自転車を見てもらえば分かるようにTAのトリプルチェンホィルを使っていた。このデオーレもツーリングを意識してかTAのチェンリングを装着できるように5ピン方式になっている。当時、スギノではマイティツアーというクランクとアームが一体式になっているものを作っていたが、シマノがそれを追従せずに、5ピン方式をとったのも、今考えてみると面白い。



 TAではアウターチェンリングはアルミ板のプレス製であった。はっきり言って、これは軽量ではあるが、ギヤ板の振れが大きく、トルクをかけて踏み込むと相当しなっていた。今と違い、6段のリヤ、幅の広いフロントディレーラーのガイドプレートにも拘わらず、チェンが当たるというような現象が起きる場合があった。それを避けるためか、このデオーレではアウターを鋳造製のものにしてある。肉厚もたっぷりとって、しなりがないように作られている。軽量化よりも強度を優先させていると言うべきかもしれない。



 これに付属するペダルはロードのAXシリーズで出されたDDペダルである。踏面が常に上を向くように下には錘が入れてあるし、トークリップ・ストラップも装着できるようになっている。踏面自体は軽量化が図られているのだが、クランクに取り付ける部分のベアリング部分が重たく、先の錘と相まって重量はあるものの、踏み心地はよかった。商品としては成功はしなかった。ペダルの互換性や価格面もあってか普及はしなかった。ある意味、一代限りのものだった。



 ただ、今、改めてこのデオーレを手にとって見ると、いい設計をしているものだと感心する。今の製品の設計が悪いとは思わないが、この頃のシマノ、今とは違った意味での、素晴らしい設計者達を有していた事がうかがえる。今みたいにCADを駆使していない、頼りきっていない頃のものである。何となく人間の手が入った、設計者達の温もりが伝わってくるような製品のように思える。

第155回へ続く...

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